●小動物臨床獣医師を目指す諸君へ
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小動物臨床獣医師を目指す諸君へ

 毎年400~500人の学生が卒業後小動物臨床を目指す時代である。彼らにとって大学卒業後どのよう場所で臨床研修を行い、どのような臨床獣医師を目指すかは重大なテーマである。

■ 過去の日本の実情
 日本の小動物臨床はこの30年で大きな変化を遂げてきた。それまでの小動物臨床は、基本的にプライマリーケアが中心であり、専門的な診療を行う施設は決して多くなかった。多くの卒業生は開業獣医師のもとで、ある種修行といった形で勤務し、小動物臨床の基本的な考え方、実際を身につけてきた。しかし、現在では、飼育される動物数の増加、家庭内における動物の役割の高まりを反映し、より高度な、専門的な診療を求める飼い主が増加し続けている。また、大学だけでなく、様々な施設でより専門的な、高度な獣医療が行われており、臨床を目指す学生は自分の将来をどこに見定め、どこで何を勉強することが良いのか、迷っているようにも見受けられる。

■ 欧米諸国における卒後教育
 欧米諸国における卒後教育体系は、まず卒業後1~2年のインターンから始まるが、そこでは、各分野の基本的な知識、技術を身につけることが要求される。多くの大学がインターンコース(プログラムに則ったコース)を提供しているが、それでも十分な数は確保できていないため、多くの卒業者は、開業獣医師、獣医専門医(アメリカ、ヨーロッパでは、獣医専門医制度があり、専門医が二次病院を経営している例が多い)の病院でインターンを行う。一方、専門医を目指す獣医師は、インターンに引き続いて、大学あるいは専門医病院において2~3年のレジデントプログラムに入る。この競争率は分野にもよるが非常に高く、決して簡単にレジデントになれる訳ではない。大学の臨床系教員になるためには専門医の資格は必須であり、博士の学位より重視される。他方、専門医を目指さない獣医師は、日本と同様開業獣医師のもとで勤務医を行い、あるいは自分の病院をスタートする。

■ 日本の卒後教育の現状~大学における研修~
 日本の卒後教育をどのように行うかは、非常に大きな問題である。医学では近年インターンシップ制度が義務化され、臨床を目指すものはすべてインターンコースに入らなければならないが、獣医学ではそのような規制はない。つまり、大学であれその他の施設であれ、きちんとしたプログラムのあるインターンコースはない。そこで、学生としては独自に自分の将来を見据えた研鑽コースを考える必要がある。
 大学では、新卒者対象とは限らないが、いわゆるインターンにあたるポジションを持っている。しかしその数は全国の獣医系大学を合わせてもおそらく50名前後しかないであろう。大学におけるこのポジションの特徴としては、給与は安いものの、多くの症例を目にすることができる、という利点がある。また様々な新しい情報に接し、必要な文献や雑誌なども豊富にある。大学の動物病院は一般に世界的な標準をもとにした診療を行っており、さらに、診断の確定に至るプロセスも標準的かつ理にかなった方法をとる。しかし、いわゆるインターン制度のように、各分野をローテーションし、それぞれの分野をきちんと学ぶというプログラムには残念ながらなっていない。とはいえ、まっさらな頭をした卒業生にとって、このような標準的診療を学び、かつそれらの根拠となる文献を読むことは、将来にわたって適切な診療態度を身につける良い機会であろう。

■ ~個人病院における研修~
 一方、多くの卒業生は、開業獣医師の病院に勤務し、そこで多くの様々な疾患を診療する。プライマリーケアとしてのワクチン投与法や時期、最も多い疾患である皮膚病や消化器病なども確実に学べるのではないだろうか。これらは、いずれ自分で病院を持つ場合の最も基本となるべき知識、技術であろう。
 それではどのような病院が好ましいか?長く勤務獣医師を勤めている人に聞くと、やはり勉強になること、が最も重要ではないか、という答えが返ってくる。往々にして、個人の病院では院長先生の方法がすべてになりがちである。それが理にかなったものであれば、全く問題ないし、多くのことを身につけられると思われる。しかし、その場合でも、勤務獣医師、動物看護師等、勤務する人のフランクな意見交換があり、あるいは病院内の勉強会がある、ということが、勉強になる意味として重要のようである。逆に、ルーチンワークのみで、それに関する討論もなく、朝から夜までひたすら診療に追われる病院の評判は必ずしも良くない。

■ 獣医専門医制度
 日本の小動物臨床分野で専門医制度を設立したのは、獣医外科のみである。まだスタートしたばかりであり、試験に合格した獣医師はまだわずかである。我々としては、飼い主のためにも専門医が少しずつ増加することを期待している。専門医になるためには、欧米のようにレジデント制度として決まったプログラムに入り、そこでの実績や業績をもとに試験を受ける必要がある。またレジデントに入るためには、少なくとも1~2年のインターン(あるいはそれと同等の)を経験していることが求められる。これは、人の医学で問題になっているように、専門分野以外の分野についてあまり十分な知識技術がない、ということでは、信頼できる専門家たり得ない、ということからできた制度である。いずれにしても、専門家への道は決して簡単ではない。現在、日本の大学等でレジデントとして登録している獣医師はわずか10名を超える程度である。
 一方、様々な学会が認定医という制度を作っている。これは日本独自のもので、ある程度の講習を受ける(その後試験制度を取り入れている分野もある)ことで認定される。いわば、その分野について良く勉強し、知っている、ことを認定したものである。さらに、このような認定制度はなくとも、ある種の分野を一生懸命勉強し、その分野では非常に高い知識、技術を身につけ、多くの獣医師から紹介を受けている、という獣医師も存在する。専門医制度はないが、ある種の専門家として、周囲の臨床家から信頼される存在となっている。
 このような病院では、いわゆる二次病院として紹介症例のみを診るのではなく、一般の症例も受付け、合わせて紹介症例を診療する。いわば、1.5次病院とも呼ぶべき存在と思われる。
 どの道を進むか、はもちろん個人の考え次第である。初めに大学での研修を行い、その後個人の獣医師のもとで研修する方法もあり、また逆に個人の獣医師のもとで研修した後、大学での研修を選ぶこともひとつの方法である。将来専門家の道を選ぶのもひとつであり、あるいは徹底的に家庭医として進むこともひとつの道と思われる。

■ むらおか動物クリニックとは
 むらおか動物クリニックは、いわば典型的な地域に根ざした診療を行っている動物病院である。当然、診療の内容はすべての診療科目である。しかし、院長の村岡先生の意思もあると思うが、相当の外科関連機器を備えている。麻酔器、モニター機器はもちろんのこと、内視鏡検査だけでなく、内視鏡手術に必要な機器を所有し、避妊手術だけでなく、様々な手術に応用している。手術は軟部外科、整形外科いずれも相当なレベルをこなしている。X線装置、超音波診断装置(カラードップラー)はもちろん備えており、また、血液検査は一般的なものはもちろん院内で行っているが、必要があれば、院外の専門業者に依頼し、かなり詳細な解析を行っている。
 私自身は約1年半前からスーパーバイザーとして多少の診療のお手伝いをしているが、それは、10年くらい前からの奥羽臨床獣医研究会(代表者、佐藤敏彦先生、岩手県一関市)との交流を介して進められたものである。この研究会は村岡先生をはじめ、岩手県、宮城県の小動物臨床の先生が少人数で結成したものであり、定期的に勉強会を開いている。毎年お邪魔しているが、内容はかなり高度である。相当の勉強家そろいで、議論される内容も濃い。
 また、村岡先生は私以外にも大学の先生をアドバイザーとして契約しており、循環器、眼科に関しても高度なアドバイスを受けておられる。
 このような診療体制から、近隣の獣医師からの信頼も厚く、多くの紹介症例が来院するため、高度な診断治療を求められる症例も多い。これらの状況を考えると、むらおか動物クリニックは、いわゆる一次診療というより、1.5次診療施設としての役割を果たしているものと考えられる。
 また、動物看護師や事務スタッフのチームワークがよく、飼い主への対応も非常にきちんとできている。本の数も多く、いつでも勉強できる環境が用意されている。さらに、村岡先生のご意向と考えられるが、高齢者の施設へ動物を連れて訪問するCAPP運動を長く実践され、また地域の子供を対象とした夏休み公開講座を実施するなど、獣医師としての地域貢献を長く実践してこられた。
 このような活動はほとんどボランティアベースで行われており、それらに触れることも大きな経験になるものと思われる。

 以上、最後はむらおか動物クリニックの宣伝になったが、実際、横手という雪の多い地域的な問題はあるものの、新卒者、既卒者に限らず相当勉強のできる環境を整えた動物病院ということができる。一度見学してみては、とお勧めしたい。

平成25年8月8日

佐々木 伸雄
むらおか動物クリニック スーパーバイザー
東京大学名誉教授、前東京大学動物医療センター長
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