簡単にわかるヒトと動物に共通の病気
(人と動物の共通感染症
zoonosis

著者 農学博士  津田修治
岩手大学農学部獣医公衆衛生学教室教授

この項については津田修治先生の御好意により公開の運びとなりました。

はじめに

  ヒトから他の動物に、あるいはヒト以外の動物からヒトに感染する可能性のある病気がたくさんあります。
その種類は多く、ウイルスによるもの、細菌によるもの、寄生虫によるもの、真菌によるもの等様々です。普段から動物をよく観察し、変だなと思ったらすぐに獣医さんに見てもらう事も必要です。中には動物が何も症状を示していないのにヒトに移ると病気を起こすものもあります。しかし普段から清潔な飼育、動物の健康管理を心がけ、動物に触った後はよく手を洗う、口移しに物を与えないなど、ちょっと注意をすれば防げるものがほとんどです。

  ここではイヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、鶏、小鳥、カメなど学校で飼育する動物とヒトの共通の病気を主に取り上げ、どんな動物からどうやって感染し、感染した場合ヒトがどんな症状を示すか、どうやって予防したらよいか、もし感染したらどんな治療をするかを記載しました。ただし、雑食性で行動範囲が広いため様々な病原菌を持っているネズミや、ヒトに近いためもっとも危険な人と動物の共通感染症を持っているサル類には十分な注意が必要ですが、上に挙げた学校飼育動物はあまり危険な病原菌を持っていません。少なくとも人由来感染症よりは遙かに安全です。学校飼育動物から得られる利益を最大限に引き出す上でも、動物との付き合いのルールはしっかり守りながら、動物由来の感染症にあまり神経質にならずに、楽しく積極的に動物とコミュニケーションをとりましょう。
岩手大学農学部獣医公衆衛生学教室教授    津田 修治
ウイルス性の人と動物の共通感染症
●リケッチア・クラミジア性の人と動物の共通感染症
●細菌性の人と動物の共通感染症
●真菌性の人と動物の共通感染症
外部寄生虫性の人と動物の共通感染症
内部寄生虫性の人と動物の共通感染症

 

ウイルス性の人と動物の共通感染症

狂犬病
保有動物・症状

  イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター等多種類の動物が保有する可能性がある。発症すると急性脳炎症状を示し、ほとんど100%死亡する。今のところ日本には存在しない。
病原体・伝搬様式

  狂犬病ウイルス(
Rabies virus)が感染動物による咬傷から感染する。
ヒトの症状
  平均30日の潜伏期の後発症し、初期症状は頭痛、不眠、咬傷部の知覚異常、その後のどの渇きや嚥下困難などの所謂恐水病症状や、呼吸困難を呈し、治療をしないときの致命率はほぼ100%である。
予防・治療
  日本に狂犬病感染動物を入れないことが第一の予防である。外国旅行先などで狂犬病犬に咬まれたときは暴露後ワクチン接種をできるだけ早く行う。


ニューカッスル病
保有動物・症状
  鶏、野鳥が罹患する。伝染力が強く鶏のもっとも恐ろしい伝染病の一つである。鶏は感染後2~3日で開口呼吸、緑色下痢便、食欲廃絶などを示すが、症状は病原ウイルスの病原性により異なる。
病原体・伝搬様式

  ニューカッスル病ウイルスが呼吸器感染するか、汚染した手指で目を触れることによるが、感染はまれである。
ヒトの症状
  1~2日の潜伏期の後主として結膜炎を起こし、全身症状を起こすことはまれ。数日の経過で快復する。
予防・治療
  鶏だけでなく、チャボなどにもワクチン接種をする。鶏小屋を清潔にする。手洗い、うがいをする。万が一感染したときは結膜炎の対症療法をする。


鳥インフルエンザ
保有動物・症状
  鳥類のインフルエンザは「鳥インフルエンザ」と呼ばれ、このうちウイルスの感染を受けた鳥類が死亡し、全身症状などの特に強い病原性を示すものを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ぶ。野鳥はほとんど発病しないが、鶏、あひる、七面鳥、うずら等が感染すると、神経症状、元気消失、呼吸器症状、肉冠・肉垂・顔面の腫れやチアノーゼ、脚の浮腫や皮下出血、下痢、食欲減退などが現れ、大量に死亡することがある。ただし症状は、ウイルスの病原性の強さ、他の病原体との混合感染、鶏舎内外の環境要因などによって異なる。
病原体・伝搬様式

  A型インフルエンザウイルスは血清型によって70以上のサブタイプに分けられている。そのうちヒトのインフルエンザウイルスはH1, H2, H3のサブタイプであり、高病原性鳥インフルエンザウイルスはヒトのインフルエンザウイルスとは異なるH5、H7のサブタイプである。
  インフルエンザウイルスは典型的な飛沫感染を起こす。鳥からヒトへの感染は希であるが、
病鳥と近距離で接触した場合、またはそれらの内臓や排泄物に接触するなどした場合にヒトが鳥インフルエンザウイルスの感染を受けるばあいがあり、鶏肉や鶏卵からの感染の報告はない。

ヒトの症状
  結膜炎や、呼吸器症状、発熱、咳などの一般的なインフルエンザ様症状のものから多臓器不全に至る重症なものまで様々である。おもな死因は肺炎と思われる。
予防・治療
  トリに限らず、動物を飼う場合は、動物に触った後は手を洗いうがいをすること、糞尿は速やかに処理して動物のまわりを清潔にすることなどを心がけること。また愛情を持って常に動物をよく観察し、動物の健康状態に異常があった場合は獣医さんに、飼い主が身体に不調を感じた場合は早めに医療機関を受診すること。また、渡りの水禽類や野鳥を介して、学校で飼育している鶏などにウイルスが侵入する可能性も考えられるので、野鳥との接触を避ける。
  食品としての鶏肉や鶏卵を食べることによってヒトが感染をした例はないが、ウイルスは適切な加熱により死滅するので、食品の中心温度を70℃に達するよう加熱するとより安全である。
  鳥インフルエンザに対する有効なワクチンは、現在のところない。治療は原則として対症療法を行う。ヒトA型インフルエンザの治療に用いられている抗インフルエンザウイルス薬も、鳥インフルエンザに効果があるとされている。


リケッチア・クラミジア性の人と動物の共通感染症

オウム病
保有動物・症状
  オウム、インコ、カナリヤ、ハトなどの小鳥で、オウム、インコ類は輸送や密飼い等のストレスで発症し、比較的慢性の経過をとる。このとき、元気がなくなり、食欲不振、羽毛逆立、目鼻からの滲出物や緑白色性下利便を排出する。カナリヤなどは比較的急性の経過を示し、致死的となる場合が多い。
病原体・伝搬様式
  糞便中に排泄されたクラミジア
(Chlamydia psitttaci)を掃除中などに経気道的に吸入して感染する飛沫感染が多い。ヒトからヒトへ感染もまれに起こる。
ヒトの症状
  感染症の型は肺炎であるが、気管支炎や感冒様症状で始まることも多い。
予防・治療
  病鳥は隔離し消毒を行う。糞便でオウム病の検査ができるので、小鳥などが元気を失ったときはできるだけ早く獣医師に相談する。ヒトの治療にはキノサイクリン、ドキシサイクリン等を用いる、小児や妊婦の時はクラリスロマイシンやロキシスロマイシンが第一選択薬。

Q
保有動物・症状

  感染宿主は家畜、愛玩動物、野生動物、鳥類など極めて広い。感染動物は軽い発熱や流産などを除きほとんど症状を示さない。
病原体・伝搬様式
  Coxiella burunettiiというリケッチアが感染動物の尿糞に排泄され、主として経気道的に感染する。また出産時の胎盤・胎児も重要な感染源で、ネコの出産時に人に感染したという報告もある。
ヒトの症状

  他のリケッチア感染症と異なり、発疹は認められない。急性症状は悪寒・頭痛・筋肉痛などを主徴とするインフルエンザ様症状であるが、慢性症状は多様である。
予防・治療
  一度蔓延すると正常化するのは困難である。飼育環境を清潔にし、作業後や動物に触った後はうがい、手洗いなどを行う。治療にはテトラサイクリン系の抗生物質が用いられる。


細菌性の人と動物の共通感染症

結核
保有動物・症状
  イヌ、ネコが病原巣となることがあるが、結核は慢性的に経過するため、感染初期には特に目立った症状を示さない。
病原体・伝搬様式

  ヒトからの感染がほとんどであるが、まれにヒト型結核菌の感染を受けたイヌ・ネコが病原巣となり、飛沫感染によリヒトに感染する事がある。
ヒトの症状
  肺結核では軽度の発熱と発汗、咳と喀痰が見られる。
予防・治療
BCGワクチンの接種。治療薬としてはイソニコチン酸ヒドラジド、リファンピシリン等が用いられる。

パスツレラ症
保有動物・症状

  イヌ、ネコが保有し、特に症状を示さない。ネコは健康なネコでも口腔内にほぼ100%保有している。イヌもこれに近い割合で保有している。
病原体・伝搬様式
  パスツレラ菌(
Pasteurella multocida)がイヌ、ネコによる咬傷・掻傷又はこれら動物とのキスによって感染する場合とパスツレラ菌を吸い込んで起こる呼吸器感染がある。
ヒトの症状

  糖尿病や、呼吸器疾患などの基礎疾患を持ったヒトが感染する日和見感染的傾向が強い。呼吸器感染は軽い風邪様症状から重篤な肺炎まで様々である。また傷を受けてから
1~2日以内に局所の激しい疼痛、発赤、腫脹で発症する事があり、時に化膿する。全身感染に至る事は少ないという。
予防・治療
  普段から健康の維持につとめる。イヌ、ネコからの咬傷・掻傷を受けたときは直ちに洗浄、消毒をする。またキスなどの動物との濃厚な接触を避ける。


サルモネラ症
保有動物・症状
  
保有動物はイヌ、ネコ、カメ,ハトなどの愛玩鳥である。保有動物は時として幼獣が下痢腸炎を起こすことがあるが、本質的には健康保菌である。保菌率は犬では20%、カメでは60%以上である。
病原体・伝搬様式
  
サルモネラ属菌が人の手などを介していったん食品の中で増殖し感染する事例が多いと考えられている。
ヒトの症状
  
腹痛、下痢、発熱の胃腸炎症状で、悪心頭痛を伴うこともある。
予防・治療
  
飼育環境を清潔にし、ネズミ、ハエ、ゴキブリなどの駆除を行う。動物や、その関連物にふれたときは手を良く洗う、十分に加熱調理する、鶏卵などは早めに消費するなど食品衛生上の一般的注意を守る。


エルシニア腸炎
保有動物・症状
  外見上健康なイヌ、ネコの保菌率が高い。
病原体・伝搬様式
  日本で発生したエルシニア菌(
Yersinia enterocolitica)による集団感染例に愛玩動物が関与した事例はまだない。散発事例でも犬猫からの直接感染はまれと思われる。
ヒトの症状
  腹痛、下痢、発熱の胃腸炎症状で、しばしば右下腹部痛と吐き気、嘔吐のため虫垂炎を疑われることがある。
予防・治療
  動物と接触したとき良く手を洗うなどの一般的注意事項を守る。アミノグリコシド系の抗生物質が治療に用いられる。


レプトスピラ症
病原体・保有動物・症状
  
レプトスピラは血清型によって分類され、イヌでは
Leptospira canicola感染が一般的であり、発熱、粘膜の充出血、潰瘍性口内炎を起こして死亡することもある。また、Leptospira ichterohaemoragiaeに感染した場合は黄疸、点状出血、緑褐色濃厚尿主徴とし、しばしば致死的である。しかし、イヌの保菌率は10~30
%、ネズミの保菌率も高いといわれているが顕性感染は少ない。ネコへの感染はほとんどない。
伝搬様式
  犬やネズミの尿とともにレプトスピラが排泄され、汚染された水田などに入ったとき傷口などから経皮感染する。また経口感染や動物との接触感染もある。
ヒトの症状

  ヒトが
ichterohaemoragiaeに感染した時は、黄疸、発熱、出血、蛋白尿、下痢便を主徴とする黄疸出血性レプトスピラ症(ワイル病)を呈し canicola感染例ではより軽症で黄疸、出血を欠く。
予防・治療
  イヌには予防注射を行い、汚染した水田などに素足で入らないように気をつける。発症初期にはストレプトマイシンが有効とされている。


カンピロバクター症
病原体・保有動物・症状
  らせん状のグラム陰性細菌のカンピロバクター(
Campylobacter jejuni)は鶏の腸管に分布し、下痢症のイヌ、ネコからも分離される。
伝搬様式
  ヒトへの感染経路は食品(特に鶏肉)水などで、加熱不十分な鶏肉から伝搬するのがもっとも一般的とされているが、犬猫などとの接触による感染例もある。
ヒトの症状
  
腸炎の潜伏期は3~7日で、主症状は発熱、下痢、腹痛、頭痛などである。下利便は水溶性であることが多いが、小児ではしばしば粘血便を伴う。
予防・治療
  鶏肉の生食をさけ加熱を十分に行うこと。また下痢症を呈している犬猫との接触には注意が必要であり、獣医師に相談する。腸炎の治療にはエリスロマイシン、テトラサイクリン、敗血症にはゲンタマイシン、髄膜炎にはクロラムフェニコールなどが用いられる。


ライム病
病原体・保有動物・症状
  
スピロヘータ属の
Borrelia burgdorferiに感染したイヌ・ネコの共通症状としては関節障害に起因する歩行異常がみられる。
伝搬様式
  マダニ媒介性疾患でマダニに刺されて感染する。病原体保有マダニは岩手、青森等各地方で確認されている。また、我が国でもイヌに抗体保有が認められている。しかしながら、まだ疫学上不明な点が多い。
ヒトの症状
  
全身性の疾患で、特徴的な紅斑いわゆる遊走性紅斑を特異症状とする。
予防・治療
  
マダニ対策が必要である。欧米では吸血防止として忌避剤の使用が奨励されている。ヒトの治療にはテトラサイクリン、ドキシサイクリンなどが有効とされている。


ネコ引っ掻き病
病原体・保有動物・症状
  
グラム陰性桿菌(
Bartonella hensellae)が病原体であり、この菌に感染したネコは一般には発症しない。
伝搬様式・ヒトの症状
  
ネコに引っ掻かれたか咬傷を受けたときに感染する。またネコに寄生するノミから感染することもあると言われている。潜伏期は3~10日で、受傷局所に発赤丘疹がみられ、2~3日で水疱となり、かさぶたができる。同時に所属リンパ節が腫れ、リンパ管炎、発熱などがみられる。
予防・治療
  特に子ネコから感染する例が多いので、爪を切るなど引っ掻かれないように注意する。またノミの駆除を行う。治療にはテトラサイクリンやマクロライドが用いられる。

真菌性の人と動物の共通感染症

皮膚糸状菌症
病原体・保有動物・症状
  
イヌ小胞子菌(
Microsporum canis)や毛瘡白癬菌(Trichophyton metagrophytes)等のいわゆる皮膚糸状菌と呼ばれる菌群によって起こされる皮膚疾患であり、イヌ、ネコ、ウサギが罹患する。イヌ小胞子菌は幼齢動物に好発する。頭部、頸部、四肢に好発するが掻痒感はあまり明瞭でない。脱毛、かさぶたなどが見られる。毛瘡白癬菌ではかさぶたのできる化膿病変が見られ被毛のもつれが起こる。
伝搬様式・ヒトの症状
  皮膚糸状菌症は白癬と呼ばれる真菌症の一つで、その7割位は猩紅色菌と呼ばれるヒト由来の真菌によってもたらされるが、発症している子イヌなどを抱く等の接触により感染することもあり、丸い赤みや水膨れができる。
予防・治療
  皮膚糸状菌はしめった環境を好むので湿気に注意するとともに、動物をよく観察し、皮膚に異常のある場合にはすぐに獣医師に見てもらう事が必要である。またふけなどから感染する場合もあるので部屋の掃除はこまめにするように心がける。ヒトも動物も抗真菌薬で治療する。

クリプトコッカス症
病原体・保有動物・症状
  土壌など自然環境に広く分布している酵母様真菌のクリプトコッカス(
Cryptococcus neoformans)は体温の高いハトなどの鳥類には感染しないが、ハトの堆積した糞便中でよく増殖する。
伝搬様式・ヒトの症状
  
ヒトの場合は主に日和見感染で健康人の発症はまれである。ただし、エイズなどの免疫不全症や免疫力の低下しているヒトが糞を吸い込んだり皮膚についたりすると、肺炎(肺クリプトコッカス症)や慢性髄膜炎を起こすこともある。
予防・治療
  
ハト小屋などは糞が飛び散らないように清潔にしておく。また体力、免疫力の低下しているヒトは、ハトの糞便に接触しないように注意する。髄膜炎などの症例には抗真菌剤を投与する。

外部寄生虫性の人と動物の共通感染症

ノミ症
病原体・保有動物・症状
  
ノミは完全変態をする昆虫で、イヌノミやネコノミがヒトに寄生するが、ヒト、イヌ、ネコともにネコノミが主流である。吸血時の物理的・科学的刺激により痒みを伴う丘疹ができる。アレルギー反応による皮膚症状が現れることもある。脱毛、やせ、貧血を起こすこともある。
伝搬様式・ヒトの症状

  感染しているイヌ・ネコを抱いたときに、ノミの成虫がヒトに飛び移る。また、感染の機会を窺っていたノミの成虫や人・動物の気配で成熟蛹がすぐに脱皮して成虫になったものがヒトに飛び移ることもある。吸血時の物理的・科学的刺激により痒みを伴う発疹ができるが数日で治癒する。
予防・治療
  
ノミの生活環にあわせたノミの駆除と発生の防止が原則である。動物に寄生している成虫はノミ取りシャンプー、首輪などで駆除する。また室内の成虫や幼虫は薫蒸殺虫剤や、散剤で駆除するが、卵や蛹は抵抗性が強く1ヶ月くらいで成虫になるので、部屋などの清掃につとめるとともに、駆除法について獣医師に相談する。また、ノミの体内には瓜実条虫というヒトに寄生する条虫の幼虫や、卵があることがあり、つぶすと口から感染したり、ノミの卵をまき散らすことになるので、捉えたノミはつぶさないで洗剤液などで処理する。


疥癬症
病原体・保有動物・症状
  
ヒト、ウサギ、イヌ、ネコのヒゼンダニ類(
Family Sarcoptidae)によって起こされる皮膚炎で非常な痒みを感じ、皮膚には紅斑が見られる。皮膚の角質層で疥癬トンネルというトンネルを掘り、その穴に産卵する。孵化した幼虫はトンネルを掘りながら成長し、成虫となり、時々皮膚の表面にでてきて接触感染を起こす。身体から離れると数日で死ぬ。
伝搬様式・ヒトの症状
  
通常は老人ホームなどで人の肌から肌への直接接触で起こるが、感染動物を抱いたりなでたりしたときにも人の肌に感染する。手、手指の間、脇の下、そけい部、陰茎や陰嚢に好んで寄生し、小丘疹、痒疹、水疱ができる。夜間に強くなる激しい痒みがある。
予防・治療
  
抗疥癬薬で動物を治療してもらうことと、飼育環境を清潔にすること。人に感染したときは薬剤を頚部より下半身にむらなく塗布する。ダニの死滅後も掻痒感が続くことがあるので抗ヒスタミン剤などを使用する。


内部寄生虫性の人と動物の共通感染症

瓜実条虫症
病原体・保有動物・症状
  瓜実条虫
(Dipylidium caninum)はイヌやネコに寄生している長さ50 cm以上にもなる長い虫で、それを構成している米粒くらいの一個一個の片節の形が瓜の種に似ているので、瓜実条虫と呼ばれている。この片節が糞便などとともに地面に落下し、その片節をノミやシラミが食べ、片節の中の虫卵が幼虫の体内で孵化して条虫の幼虫となり感染の機会を待つ。感染動物は下痢や削痩を示すこともあるが無症状のこともある。
伝搬様式・ヒトの症状
  瓜実条の虫卵は人の口に直接入っても感染しない。イヌやネコのノミを手でつぶしたとき体内からでて手に付いた条の幼虫が口から入ったり、幼児がノミやシラミのいる畳やカーペットを舐めたりすると感染する。幼児に感染すると腹痛や下痢の症状を起こし、神経症状を起こすこともある。
予防・治療
  
イヌやネコが感染しているときは駆虫する。ノミやシラミのいないように飼育環境を清潔にする。食事前に良く手を洗う。ヒトに感染したときは駆虫剤を用いる。

イヌ・ネコ回虫症
病原体・保有動物・症状
  イヌ回虫(
Toxocara canins)は長さ4~18 cm、ネコ回虫(Toxocara cati)は長さ3~12 cmの細長い虫で、イヌ回虫は胎盤感染して子犬に感染する。感染子犬は卵を排泄するが、成犬は排泄しない。ネコでは胎盤感染はないが,生涯卵を排泄する。感染しても無症状の場合が多いが、幼犬に多量の成虫が感染している場合には、食欲不振、下痢、嘔吐などを起こすことがある。
伝搬様式・ヒトの症状
  
イヌ・ネコの糞便から排泄された卵を経口的に摂取すると感染する。ヒトでは成虫になることはなく幼虫のまま体内を移行する。肝臓にまずとどまるが、まれに眼や脳を始め、各臓器へ移行する。腫瘍と誤って眼球摘出された例もある。
予防・治療
  子犬を入手したときは必ず、またネコは定期的に糞便検査をして、卵陽性ならば駆除する。イヌ・ネコと接触した後だけでなく、食事の前には良く手を洗う癖をつける。いったん人に感染したときは、ジエチルカルバマジンやメベンダゾールが試みられるが、効果は一定でなく幼虫移行症に対する明確な治療法はない。


トキソプラズマ症
病原体・保有動物・症状
  
ネコを終宿主とする原虫であるトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)はヒト、ネズミ,豚など非常に多くの動物を中間宿主とするする。トキソプラズマに感染したネコは通常無症状であるが、子ネコでは呼吸困難、視力障害、神経症状を呈し死亡することもある。
伝搬様式・ヒトの症状
  
ネコの糞便や、十分に加熱調理(66 ℃)していない豚肉などを摂取したときに感染する。健康であれば無症状のことが多く、たとえ症状がでてもリンパ節の腫脹程度で済む。妊娠中に初感染すると流産や早産、胎児への感染を引き起こすことがあるが、再感染の場合はすでに免疫を獲得しているのでこのようなことはないとされている。
予防・治療
  
我が国各地のブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ヤギなどの10~30%の筋肉にシストが検出され、子ネコの1%からオーシストが検出されたという。また成人の30%はすでに感染した経験があるという。したがって、適齢期の女性は妊娠前に抗体検査を受け、陽性であれば安心して良いが、陰性であれば食事前に良く手を洗う、生肉を食べない等、感染に注意を払う必要がある。




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